冬の公園。雪が積もって、遊具もベンチも見当たらない。
夏場なら入口から入口まで好きなように歩いて好きなように出ていけるが、この季節はそれができない。もはや用を成さない車止めを跨いで中に入ると、先に何人かが踏み固めた即席の道がいくつか、網目状に延びている。しかしそのどれも細く頼りなく、少し踏み外せば深い雪に足を取られるはめになる。中には途中で消えている道もある。
入口で思わず足を止め、どう進んでいくべきか考える。
正解はどれか一本、と思う。
夜。人はひとりもいない。圧倒的に静かだ。
たったひとつ聞こえる自分の足音も、足裏を離れた瞬間に凍りついて、軋んだ機械の出す音のように響く。その周波数に同調して、雪や空気や葉のない木立、鉄柵、標識、家々の屋根、それらが互いに顔を見合わせ、頷き合う気配が周囲を満たす。その気配の中を僕は歩く。
——正解はどれか一本。
頭の中で呪文のように繰り返しながら、正しい道なんて、本当はどこにもなくていいじゃないか、とも思っている。誰も通っていない新雪に踏み入れて、埋まりながら歩いて行けばいい。靴の中に雪が詰まるくらい、大したことじゃない。
そんな思いを見透かして、頭の上で誰かが笑っている。
ああ、僕の創造性と想像力のすべては彼らのものだ。唐突にそう思う。ずっと知っていたことだったが、今また、痛烈に思い知った。そして、また少し借りてゆくことを許して欲しいと胸の内で願う。
公園を渡りきった僕はまた人に戻る。
振り向いて見ればそこはただの町の一角で、どの道も正解だったのだと解った。
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