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彼がバスに乗らない理由

きまぐれ小話日記です。
ある朝(というか今朝)の物語。



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 朝のバス停。今から戦場(職場とか)へ赴く人々が邂逅し、数分間をともに過ごし、あとはきれいさっぱり互いを忘れる。そういう場所である。
 今朝は10人ほど並んでいる。私は前から6番目にいる。
 不思議なことだが、同じ時間でも一人も待っていなかったり、20人以上並んでいたりする。理由はわからないが、たぶん、波のようなものだと思う。

 バスが来た。すでに満員。ドアは開いたが、中の人は「できれば乗らないでほしいな」という顔をしている。乗る側としては知ったこっちゃないので、列からひとりふたりと乗り込む。2人しか乗れなかった。私は前から4番目になった。

 すぐ後ろにもう1台いたが、超満員だったのでスルーされた。運転手が車外向けのマイクで『満員ですので●×☆▽…』みたいに言うが、何言ってるんだかわかったためしがない。残された列の空気が空しい。
 それでも穏やかなのは、このバス停には怒涛の勢いでバスが来るからだ。この時間帯の時刻表は連続する数字でびっしりと埋まっており、タイミングによっては、1分間に3本来ることになっている。数珠つなぎで来るから、誰も時刻表なんか見ない。ひたすら、向こうからやってくるバスの混み具合に目を凝らすのだ。

 1分後、次のバスが来た。ひとりだけ乗った。もうひとりぐらい乗れそうだったが、次に並んでいた人は諦めた。
 私は前から3番目になった。次あたり乗れるだろう、とゆったりした気分で待つ。

 20秒後、次のバスが来た。ドアが開いた。満員だ。でも一人ぐらいなら乗れそうだった。先ほど前のバスに乗るのを諦めた、先頭の男性が乗りこむ…と思ったら乗らなかった。彼としては「このバスはもう乗れない」という判断だったのだろう。こちらが諦めたのであっさりドアは閉まり、バスは乗客を増やすことなく走っていった。そこはかとなく、「あれ?乗らないの?」という空気がただよう。
 ちなみに、ここを通るバスはすべて駅に行く。駅までしか行かない。つまり男性が違う行き先のバスを待っていることはない。

 30秒後、また次のバスが来た。1台前とまったく同じ状況だった。頑張って乗れば乗れるし、満員だと諦めれば乗れない。
 でも、列に並ぶ人々は一様に思っていた。
 「先頭のやつ乗れよ」と。
 この場合、ひとりずつでも列の人数を減らしていくのが明らかに正しい共闘のしかたである。運が良ければまとめて救済されることもあるが、ちまちまと全員の順番を詰めていくほうが確実で効率的だ。それはこのバス停に立つ者のあいだで、当然守られるべきの暗黙のルールだった。

 が、先頭の男性は乗らなかった。またしても。3台も諦めやがった。

 穏やかだった列の空気が一変する。全員の「先頭のやつ乗れよ」という心の声が具現化して幻の赤いバスが走ってきそうだった。本当に何故乗らないのだろう。この人は「諦めたらそこで試合終了だよ」という言葉を知らないのだろうか。知らないな。

 私はと言えば、先頭の男性よりもその次に並んでいる男性にイライラしていた。「乗らないなら乗っていいですか?」と言ってアンタが乗ってしまえば、列は進むし、先頭の男性がなぜか乗らないことに対する抗議も成立するではないか。それは№3の仕事ではない。№2のアンタがやるべきだ。
 とかなんとか考えたが、そんな悠長なことも言っていられない。先頭の男性がバスに乗らない理由もなんだかよくわからないので、次また同じような状況だったら、一言断って乗ってしまおう。3番目だってやらなければならなかった。下剋上というやつだ。 

 バスが来た。ドアが開く。ちょっとだけ、全員いっぺんに救済されるパターンを期待していたのだが、相変わらずの満員だった。全員が、先頭の男性の動向を注視した。乗りますよね。乗るだろ。早く乗りなさい。乗れ。

 乗らなかった。

 「(前略)乗れよ」という空気がスパークした。こりゃだめだ、と悟った。そして件の台詞を私が放つ0.1秒前に、私の隣の隣、つまり前から5番目の女性が「あのー乗らないんですか?急ぐんで乗りたいんですけど」と早口に言うが早いか乗り込んだ。まさかの№5の登場だった。№2も驚いたらしく、お前かよ!という顔をしていた。私はそんな№2を完全に無視してバスに乗った、アンタに期待した私が間違っていたよ、もう知らん。あとに3、4人ドカドカ乗ってきて、最後に、かなり遠慮がちに先頭の男性が乗ってきた。


 乗るのかよ


 ぎゅうぎゅうのバスの中にツッコミと怒りが充満した。乗るのかよ。今かよ。何故だ。お前のせいで遅刻したら責任取れよ、等々。私はといえば、「朝から無駄遣いをした」と思っていた。間に合わせで買ってしまった服が、やっぱり間に合わせでしかなかった時みたいな気分だ。がっかりだ。色々と。

 目の粗いやすりのような感情を満載したバスは、車内の軋轢をよそにすんなりと駅に到着した。ドアが開いた途端、人々は11月の冷たい風から身を守るためにそれぞれにちぢこまり、一瞬でひとりになる。
 私も例外ではなく、最後まで使えなかった№2や、勇敢だった№5が何を着ていたかさえ、もう覚えてはいない。すべての元凶だった先頭の男性も、人混みにまぎれて消えてしまった。挨拶も前兆も、惜別の念もない。気付いてみれば誰もいなかった。バス停には最初から誰もいなかったんじゃないか、とさえ思うほどだった。

 そうして一人でたどり着いた駅のホームは異様な人であふれていて、『信号トラブルのため、全線で運転を一時見合わせております』とアナウンスが流れていた。
 拍子抜けしてため息をつく。諦めても、諦めなくても強制終了でした、先生。
 あのバス停に並んでいたおそらく全員が足止めを食っているのだろう。そう思うと、無駄としか言いようのない共闘の時間がなつかしく胸に蘇るのだった。
 無名の№4あたり、今なら友達になれるかもしれないと思ったが、性別すら思い出せなかった。




おわり
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最後まで書いてから、肝心の「彼がバスに乗らない理由」を書くはずだったのに書き忘れたことに気付きましたが、出来上がっちゃったからもういいです。自分で考えればいいじゃん。

サーセン。




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