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My girl (Document Version)/A sketchbook of the pillows

曲名→お題 みたいな感じでサラリと小話をひとつ。

習作シリーズはごちゃまぜで、ピロウズはピロウズでまとめておこうかなーと思います。
実はけっこうストックがあるんで、手直ししつつちびちびあげていきます。
目標は全曲コンプリート! ……はさすがに多すぎるので、まあ飽きるまでやります(笑)

第一号はマイガール。
なんとなくマイガール。どうぞ。



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My girl (Document Version)




『はーちゃんへ 無事に赤ちゃんが生まれたよ。見にきてね!』

 そのメールには、彼女がまだ病室のベッドで、生まれたばかりの赤ちゃんを抱いている写真が貼付されていた。僕は彼女の笑顔を見ると、まだ少しだけ胸が痛む。仕方がない。その痛みは、最近になってやっと『時間が解決してくれること』の仲間入りを果たしたばかりなのだ。

 夏希が結婚する前の日、彼女から僕に電話がかかってきた。今から会わない? と。
「だって、忙しいんじゃないの?」と僕が言うと、夏希は、
「はーちゃんに会いたいなぁと思ったの」と笑った。
 僕と夏希は、電話を切った15分後に、近所の小さな公園で会った。夏希は途中コンビニで買ってきたという、ペットボトルの温かいお茶をくれた。
「準備とか、もういいの?」
 ブランコでお茶を飲みながら、僕は夏希に訊いた。
「肝心なことはもうけっこう前に全部終わってるし、いざ前日なんてね、あんまりすることないんだ」
 家にいても、なんだかしんみりしちゃってさー、お父さんとか。夏希はふふふと笑いながら、ブランコを軽く漕いだ。彼女の赤いチェックのマフラーがふわりと揺れ、式のために伸ばした髪がなびいた。僕はそれに見とれる。やっぱり、夏希はきれいだなと思う。中学校で出会って友達になってから、ちっとも変わらない。
「はーちゃんこそ、ドレスとかOK? 招待状忘れないでよ?」
「私は大丈夫だよ」
「て言うか、はーちゃんのドレス姿見るの初めてだよね。そのほうが楽しみだなぁ」
「何言ってんの、自分の結婚式でしょうが」
 赤いコンバースの自分の足元を見て、そうだった、と思った。『僕』はあした、黒い大人っぽいドレスを着て、ヒールを履いて、夏希の親友として式に出るのだ。友人代表のスピーチもする。結婚おめでとう、と、全員の前で言う。笑って言う。

 ーー『僕』の大好きな女の子が、あした、結婚する。

「ブーケは絶対、はーちゃんに投げるからね」
「えー、いいよー、別に」
「どうして?」
「失恋したばっかりだし」
「……うそ?」
「ホント。好きな人がいたんだけどねー、結婚するんだって」
 夏希はびっくりした顔で僕を見た。「……ごめんね、気づかなかった」
「もういいんだ」僕は軽く笑って首を振る。
「だったらなおさら、はーちゃんに投げる!」
 夏希は真剣そのものでそう宣言すると、いきなりブランコから立ち上がった。
「はーちゃん、練習だよ!」
「練習?」
「投げるから取って、これ」
 夏希はブランコの柵のむこうに立つと、僕に背中を向けたまま、ほぼ空になったペットボトルをぶんぶん振り回した。返事をする間もなく、せーの、と夏希の両手があがって、めちゃくちゃな方向にペットボトルが飛んでいった。僕は思わずブランコから立ち上がったが、ブーケにはほど遠いプラスチックの容器は、砂場のへりに当たってからからん、と音を立てた。振り向いた夏希は、自分の暴投を棚に上げて笑い出した。
「取ってよ!」
「取れるわけないじゃん!」
 僕らは顔を見合わせて、しばらく笑った。中学生のころから変わらない、まるくてやさしい夏希の笑顔。『私』のなかの『僕』は、もうずっと、その笑顔に恋をしてきた。今だってしている。僕は、やっぱり、キミが好きだ。
 夏希と僕は無敵だった。僕はいつだって夏希に救われていたし、夏希も僕といるのがいちばん楽しいと言った。ふたりでいれば何でもできたし、それでどこにも行けなくたってかまわなかった。高校生になって、夏希に恋人ができたと聞いて、僕は心の底から泣いた。どうして『僕』は男の子じゃなかったんだろうと神様を恨んだ。この世界で一番彼女を好きなのは僕なのに、なぜ、僕じゃないんだろう。大人になっても変わらなかった。私のなかの『僕』はずっと生きていて、夏希にずっと恋をしている。
 だけど、私はもう『僕』を殺さなくちゃならない。
「もう一回投げるから、今度は取ってね」
「えー、もういいよ」
 断ったのに、夏希は走ってペットボトルを拾いに行った。でも僕には彼女のブーケを受け取る気持ちなんてないし、投げても取らないつもりで、立ち上がらなかった。しかし夏希もまた、拾ったボトルを握ってしばらく動かないでいる。声をかけようと思ったら、先に夏希が僕を呼んだ。
「はーちゃんさ」
「なに?」
「中学の時、私が川に落とした帽子、取りに行ってくれたよね」
「……え。ああ、あったね、そういえば」
「あれ嬉しかったな。はーちゃん、かっこよかった」
 急に何を言うんだろうと、僕は話の続きを待った。
 しかし、次の瞬間、夏希は思いきり振りかぶると、僕の乗るブランコの上をはるかに超える軌道でそれを投げた。驚きに動けなかった僕の背中のずっと向こうで、ボトルを受け止めた茂みが、ガサリと鳴った。
「取ってよ」
「取れるわけないじゃん」
「はーちゃんなら取れると思ったの」
「……」
 運動が苦手なくせに、渾身の一投だったらしい。夏希は少し息が切れていた。僕は言葉を返せなかった。彼女は、いったい何が言いたいのだろう。
「はーちゃん」
 砂場のへりの上から、夏希はもういちど僕を呼んだ。顔を上げると、彼女は寒さですこし赤くなった頬をこわばらせて、まっすぐ僕を見ていた。
「なに?」
「ずっと友達でいてね」
「どうしたの、急に」
「絶対ね」
「……うん」
 僕は小さく頷いた。夏希はほとんど泣きそうな顔をしていた。どうして彼女が泣くのか、僕にはわからない。泣くのは僕だけでいい、キミは笑っていてほしいのに。告げられない言葉が、胸の中で消える。
「夏希」
「なに?」
「こんなこと言うのはアレだけど」
「うん」
「万が一ダメになったときは、僕がいるよ」
 最初で最後の告白だった。縁起でもないこと言わないで、と、夏希は言うと思った。でも彼女は、すっと息を吸い込んだまま少しだけ目を伏せ、小さな声で「うん」と言った。まるで、僕じゃなくて自分に言ったみたいだった。気のせいに違いなかったけれど。
 夏希はひらりとブランコの柵を飛び越えると、僕の隣に戻ってきた。そしてくすくす笑いながら、
「はーちゃん、今、僕って言った」
と、僕のコンバースのつま先を軽く蹴った。
「え、言った?」
「言ったよ。懐かしいね、中学のころ、はーちゃん『僕』って言ってたよね」
「言ってたかも」
「かっこよくて、好きだったな」
 夏希はまた、ブランコを漕ぎはじめた。
 そうか、と、止まったままで僕は思う。
 夏希の中にも、たしかに『僕』が見えていた時期があったのだ。出会ったばかりのあのころ。僕らが無敵だったあのころには、夏希も僕に淡い恋をしてくれていたのかもしれない。でも、『僕』だけを見ていた夏希はもういない。
 そして、夏希はそれをちゃんとわかっていた。
 彼女が高く遠く投げたボトルの軌道は、彼女なりの『僕』への決別だった。彼女にはもう『僕』は見えない。転んでも、ずぶ濡れになっても、彼女の手からこぼれたものを全力で取りにいける『僕』は、もうどこにもいない。
 そうか、僕は、もうずっと前からキミを失い続けていたんだな。そして僕は『僕』のことも、少しずつ失っていく。それは夏希が結婚するからじゃなく、彼女を好きだという気持ちが消えるからでもなく、僕らが大人になるからだ。
 やっと気がついた。やっと、僕はひとりになれる。僕がキミに会うことは、もう、二度とない。
 手をつないで、僕らは家に帰った。
 別れ際、バイバイ、と夏希は笑った。バイバイ、と僕も笑った。
 ーーバイバイ。僕の大好きだった『女の子』。

『おめでとう。近いうちに絶対、行くよ』

 メールの返事を打つ。
 言葉にしたのはそれだけだったから、送信はすぐに完了した。



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別れた終わったじゃなくても、近くにいる人がいつの間にか別人みたいってことあるよね、っていうヤツです。すっぱいなあ……

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